2014年4月2日水曜日

山田洋次監督の名作 「息子」レビュー

みなさんは山田洋次監督の映画をいくつ知っていますか?
今20~30代の方だとあまり山田洋次監督の作品を見る機会がなかったのではないでしょうか。
私もそんな感じで、山田洋次監督作品で思い浮かぶのは「男はつらいよシリーズ」くらいでした。
小さい頃から何度もTVでやっていて、内容もよく分からずつまらないなぁ思っていたのが印象的です。

そのまま大人になるまで山田洋次監督の作品をまともに見ることはなかったのですが、最近動画配信サービスのHuluで配信しているのを知り、どんな作品なのか興味がわきいくつか見てみました。
手始めに「幸福の黄色いハンカチ(1977年)」と「遙かなる山の呼び声(1980年)」という、私が生まれたくらいの年に公開された映画を見てみましたが、どちらも高倉健倍賞千恵子を主役とした家族愛をテーマにした作品で、心温まる作品でした。
ストーリー自体はシンプルなのですが、雄大な自然と日常生活をリアルに描く俳優の演技は素晴らしかったです。
その時代の映画見ていて面白いなと思ったのが、時代背景です。
自分が生まれた頃の車や若者のファッション、髪型、街の様子など、自分の親達が若者だった時はどんな時代だったのか、どんな時代に自分が生まれたのか、そういった目線で作品を見ていくとまた別の面白さがありました。

山田洋次監督の作品の温かさに惹かれた私は他に、「母べえ(2008年)」や「おとうと(2010年)」など比較的新しい作品も見てみたのですが、その中でも一番素晴らしいと思った作品が今回紹介する「息子」という作品です。
山田映画の一番の魅力は家族愛をテーマに、ごく日常的な部分に潜む幸せを作品化しているところで、この「息子」もそういった作品の1つです。
ただこの作品が素晴らしいのは、ストーリーと役者の演技と名シーンこれが最高にマッチしているからだと思います。

この映画は1991年の映画ですので、今から20年ちょっと前ですね。
今見るとかなり古臭い時代だなぁと最初は取っ付き難い感じがしますが、見だしていくとあまり気になりません。
古い作品ですので今更ネタバレということもないでしょうから簡単にあらすじも載せていきます。

1991年というとバブル期も終わりを迎えようとしていた時代です。
主人公は岩手県の山奥から東京に出てきてアルバイトで食いつないでいる不甲斐ない息子(永瀬正敏)と、その山奥で妻に先立たれ1人農業を続ける父(三國連太郎)の2人です。
息子」はこの定職につかない息子と、いつまでも田舎で農業を続けることにこだわる父が互いに心を通わせるようになるまでの物語となっています。

この家族には他に長男と長女がいますが、どちらも結婚して家を出ており主人公は出来の悪い次男坊という設定です。
東京でサラリーマンをしてマンションも購入して家族を築いている長男にコンプレックスがあり、そのうち危機感からかいわゆる3K(「きつい」「汚い」「危険」)と呼ばれるような職場に就職します。
ちなみにこの職場の従業員役としていかりや長介田中邦衛佐藤B作など有名どころが出演していまして、ちょい役にはもったいないくらいです。
他にも多数有名な俳優の方が出演していますのでとても豪華な映画となっています。


次男はそんなキツイ職場で文句も言わず働いており、そんな時に工場の事務員の女性(和久井映見)に一目惚れします。
ただ彼女は聾唖者ろうあしゃ)であったため話すことができなかったのです。
それでも諦めず交際を決意した彼は上京してきた父に彼女を紹介し、「俺たちは親父がなんと言おうと結婚する」と息を巻いて訴えます。
しかしてっきり反対するかと思っていた父の反応は意外なもので、父は彼女に「本当にこの子(息子)の嫁になってくれますか」と言います。
このシーンで主人公たちを包むなんとも言えない幸せな空気は、なかなか他の映画では味わうことができないと思いました。
私は何度もこのシーンからラストまでを見返しました。

その夜、嬉しさのあまり父はなかなか眠れずにいます。
そして息子に再度結婚の意志を確認すると、ビールを出させ手拍子を叩いて歌い出します。
そんな父を見る息子の優しい眼差し。
このシーンこそ父子2人の心が通じ合った瞬間でしょう。

翌日父は息子達に選んでもらったFAXを抱えて田舎へ帰ります。
深い雪の中、今や過疎地となった誰もいない古い家に辿り着くと、そこに一瞬かつての家族の姿が浮かび上がります。
高度成長期の時代に首都圏まで出稼ぎに行っていた頃、出稼ぎを終えて家に帰ってくる度に迎えてくれた暖かい家族の姿。
囲炉裏を囲んだ一家団欒の情景。
まだ幼かった子供達、そして妻に両親。
それこそが現代社会に失われつつある家族の理想像で、このシーンを見た瞬間グッと胸を締め付けられるような感銘を覚え、自然と涙してしまいます。

この映画はこのシーンがラストとなっていますが、最後に1人ストーブに火を点ける三國連太郎の表情はその後の物語を語っているようにも思います。
とある家族のとあるシーンを切り取っただけのシンプルなストーリーなのですが、だからこそ俳優達の自然な演技が光る名作と呼ばれる映画だと思います。
セリフではなく表情や細かな仕草だけで感情が手に取るように伝わってくる三國連太郎の演技は、まさに素晴らしいの一言です。
名優ということにこの作品を見てようやく気付きましたし、この作品こそが晩年の三國連太郎の良さを最高潮に引き出した作品だと確信します。



日々時代は変わっていきますが、今も昔も家族の理想の形はいつも同一線上にあるんだなと私はこの映画を見て感じました。
みなさんもこの作品を見て今一度家族とは何かを考えてみてはいかがでしょうか。



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